S:至高の精神 ナロー=リフト
宇宙は広大だ……。異なる星で生まれた生命は、我らが星とは異なる形であり、知性が生じれば、文化も精神性もまったく異なることであろう。ところで話は少し変わるが、このワタシが、この世でもっとも忌み嫌うものが何かわかるかね?
言わずもがな、腰痛だよ。この不自由なる痛みに満ちた肉体を脱し、純粋な精神体へと昇華することができたら、いかに素晴らしいか!確信した……この宇宙には、必ず純精神体が存在すると!そのような知性体が悪意を抱いたら、弱き個体の集合を感知し、襲いかかってくるはず……嗚呼、はやく存在を証明したい!
~ナッツクランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
終焉が集められたウルティマトゥーレで「オストラコン・トゥリア」付近にいるイーア族を知っているだろうか。メーティオンが3番目に接触した星の住人だ。
元はアーテリスの生物と同様にエーテル性の生物だったらしいが、彼らはあらゆる「限界」をなくすことで、悲しみの種を排除し、真の幸福をもたらそうと考えた。土地、資源、労働力……さまざまなものに限界があったが、中でもとくに大きな問題だったのが、自らの肉体の限界だったのだという。どうせ終わるものと捨てるには長く、寛容に生きるには短すぎる半端な寿命をもっていた彼らは、肉体を良い状態で維持するために費やされる多くのエネルギーを排除するため長年の探究の末に、肉体を捨てて精神生命へと変わる方法を編み出した。彼らは、肉体の限界から解放され、健やかな永遠の生を手に入れたのだ。そうした在り方の変化は、彼らにより広い視野と長い時間をかけて物事を研究できる猶予を与え、彼らは知識をさらに発展させた。たからだ。そして彼らは最後の限界に挑むことにした。すなわち、この世すべての理を解明することだ。過去、いかにして宇宙が生じたかを解き、現在を織り成す森羅万象を明かし、やがて至る未来を予測する。そうすることですべての不安や憂いが取り払われるはずだと考えたのだ。だが行き着いた先は終末だった。今この時も広がり続ける宇宙。広がり続けた先待っているのはあまりに遠く引き離され、熱も届かず凍てついた星々。そしてすべての星は凍てついたまま、新たな星が誕生することもなく、永遠の終わりを迎えるのだという。あらゆる検証の結果、全てがそこに行きつくと知ったイーア族は知の探究をやめた。いずれ消えて無くなるのなら何を知っても無意味である、それが彼らの結論だった。彼らは一度捨てた肉体をもう一度手に入れて自分たちを終わらせた、それがイーア族の文明の終わりだった。
そのイーア族に憧れる男がいた。その理由は腰痛だ。腰痛に悩む彼は肉体を捨てれば彼自身が忌み嫌うこの悩みから解放されると思っているらしい。そんなことに構っている時間はない、この依頼を聞いた時あたしはサラッと見送ってしまうつもりだったが、隣で依頼内容を聞いていた相方が口を滑らした。
「イーアやん」
あたしは慌てて相方を目で制したが、めざとい依頼主が聞き逃すはずもない。そんな経緯で遥々ウルティマトゥーレまでこの男を引率する羽目になったという訳だ。
足取りも軽い男の後をかなり遅れてやる気なさげにあたしは付いて行く。目の前の大きな砂丘の頂上を男が越えて行って姿が見えなくなったところで、男の歓喜の声が聞こえた。
「見つけたぞ、イーア族!思っていたより大きいな!」
……大きい?確かイーア族は大きいものでもあたし達と変わらない大きさのはずだ。
あたし達はなんだかぞわぞわする嫌な予感と、やる気がない余りに鈍感になり感じ取れていなかった強大な気配を感じて砂丘を駆け上がった。砂丘の頂上から麓を見下ろすとそこにはこれだけ離れた所からでも目視で分かるほど巨大な、本来のイーア族の10倍はあろうかという巨大なイーア族の姿が見えた。
「しまった…」
あり得ない事ではない。そもそもこのウルティマトゥーレにいる彼らはコミュニケーションが取れ、感情らしきものはあってもあくまで本物ではなく形のない思念体である。さらにイーア族は元々体を持たない精神体だ。そんな存在すら不安定な思念体が同じ感情、例えば「絶望」などの強い感情を共鳴させ共感すれば、消しゴムのカスを集めるようにどんどん吸収しあって膨れ上がり巨大化することはなんとなく想像できる。
「そいつは違う!戻ってー!!」
あたしは巨大なイーア族に走り寄っていく男に向かって叫んだ。これは手に負えない、あたしがそう思うと同時に相方もそう思ったようだ。相方は預けてあった特殊なリンクシェルを懐から出すと宙域中のハンターや冒険者に警告を発した。